水の音、無形の雫

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便所論壇2.0 『異国迷路のクロワーゼ』   2011.08.05


便所論壇は今まさに第二章へと移行しようとしているのかもしれません。

Croisee1.jpg


「異国迷路のクロワーゼ」において描かれる、あるいは描かれない「便所」は、その空間としての存在に加えて、周辺環境まで含めた「文化」としての特色に着目すべきであると我々に語りかけてきます。

この作品の時代設定は、19世紀後半という便所的にきわめてデリケートな時代――下水道の整備によって水洗便所の普及が始まろうかという時代――であるため、どこの家庭にも現代のようなかたちの便所があるとは言い切れません。(ひどく曖昧な言い方になりますが、それぐらい微妙な年代ということです)
つまり、ここで押さえておきたいのは、クロードの家には、現代で想定されるかたちの便所はなかった可能性が非常に高い、という点であります。

Croisee2.jpg

Croisee3.jpg

Croisee4.jpg


例えば、第三話において描かれたのは、この作中世界/時代における「水」および「紙」の希少さでした。
水が貴重な存在であるということは、上下水道などのインフラがまだ整っていない、すなわち水洗便所が未だ普及するに至っていないことを示唆しています。
また、紙が高価なものである旨は、「トイレットペーパー」が存在する可能性を危ういものにします。歴史的に見ても、トイレットペーパーが最初に製品化されたのは1857年のアメリカでのことですから、少なくとも、決して裕福とは言い難いクロードの家にトイレットペーパー(またはそれに準ずる紙製のもの)が常設されているとは考え難い。
すなわち、湯音は便所に行ったあと、紙以外の何かで拭く、あるいは拭いてない可能性すらあるわけです。

これらのことは、第四話で語られた「お風呂」の事情からも読み取れます。

Croisee5.jpg

Croisee6.jpg

Croisee7.jpg


ここでもやはり、日本とフランスにおける水資源に関しての捉え方の差異が描かれており、湯音はフランスに来てから満足にお風呂に入れない生活を強いられていたのだという大変喜ばしい事実が明らかにされるとともに、便所についても同様に、よくて汲み取り式、もしかしたら昔ながらに「おまる」のようなものに排泄した後、窓から捨てる/川に流すという形式なのではないかとの疑念をより強固なものとします。
また、お風呂がそうであったように、「便所」も壁や扉によって隔離された空間ではなく、いつクロードとはち合わせてもおかしくない環境である可能性も示唆されています。
この作品では、便所という空間をまったく描くことなく、別の要素によって、当時の便所の有り様を描いているわけです。

ところで、ちょっとした余談になりますが、フランス人は便所に行ったあと手を洗わないという話はご存知でしょうか。これはあくまで「日本と比べて」といった程度の話ですが、公衆便所などでも手を洗わずに立ち去る人が多いとはよく耳にします。
さてさて、現代ですら「手洗い」の文化が日本ほど浸透していないフランスで――上述のお風呂の件も然り、そもそも「衛生」というものに関して現代日本のような潔癖さがない――水洗便所も未だ普及していないと思われる19世紀、「水」も「紙」も貴重な存在とされる時代、果たして湯音は、便所に行ったあと手を洗うことなどできたのでしょうか

Croisee8.jpg


まとめます。

1.クロードの家には現代で考えられるような便所はない可能性がきわめて高い。(少なくとも水洗ではないと考えられる)
2.恐らくトイレットペーパー的なものもない。(当時の主流はボロ布や干し草、あるいは「手」)
3.水は貴重なので手は洗わない。
4.お風呂と同じく、便所も他の人の目に晒されるような空間である可能性が高い。

以上のことは、あくまで憶測の域を出ないわけでありますが、しかし一方で、そうした憶測を裏付けるための描写が頻繁に行われている点にこの作品の面白さがあるのではないでしょうか。
先述の通り、便所以外の要素、すなわち「水」や「紙」に関する文化を描写することによって、間接的に「便所」の様子が描かれるわけです。
直接的に「かたち」は描かれなくとも、我々の目には、湯音がその着物の裾をたくし上げ、もしかしたらクロード様に見られてしまうかもしれないと羞恥に頬を染めながら「容れ物」の中にカレーを注ぎ込み、そのまま手を洗わずに何食わぬ顔で店頭に立つ姿がハッキリと映るでしょう。
そして、こうした「便所描写」は、冒頭で述べたように、便所という空間そのものだけではなく、「トイレットペーパー」や「手洗い」といった周辺機器への目配せの必要性を訴えかけています。
それはすなわち、便所論壇の新たなフェーズへの移行を促すものとなるのでしょう。


――――と、以上のようなことを書き綴ったのは、言わば便所論壇1.0の総まとめである「排泄する身体」が掲載されたシンシアニメの宣伝であると同時に

シンシアニメ
コミックマーケット80(二日目)
会場:東京国際展示場(東京ビッグサイト)
開催日時:8月13日(土)10:00~16:00
サークル名:シンシアニメ
ブース:東2 Q-25b
夏コミ特別価格:500円(通常0,721円のところ)



実はこの中で「異国迷路のクロワーゼ」に少しだけ触れており、その部分への補足あるいは訂正/加筆の意味を込めたものであります。
ので、上記の文章を読んで便所論壇に興味を持たれた方や、第一話(シンシアニメの原稿が書かれた当初)の時点で判断した「クロワーゼ」への解釈の微妙なズレに羞恥で頬を染める筆者の姿が見たい方は、ぜひとも夏コミ二日目にお立ち寄り頂ければと思います。

以上。













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朝食は、コーヒーとパンとチーズだから湯音の出番なし。ここは、古き良き日本の文化に従い、焼き魚、味噌汁にご飯ならば、湯音の出番があったでしょう。

ゼロから | 2011.08.06
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